イタリア代表対イスラエル代表戦、戦術分析____カテナチオの崩壊!?乱打戦に潜む戦術の鬩ぎ合い

国際戦レポート
【計9得点が飛び交う乱打戦に|イスラエル×イタリア|ハイライト】FIFAワールドカップ2026 欧州予選グループI第6節 2025
【DAZNは無料でライブやハイライト、番組も楽しめる!】視聴はこちら⏩️🏆ワールドカップ欧州予選 グループI 第6節🆚 イスラエル 4-5 イタリア⚽️1-0 (16') オウンゴール1-1 (40') モイーズ・キーン2-1 (52') ドル・ペレツ2-2 (54') モ...

はじめに____5-4という異常なスコアの意味

2025年9月8日、ワールドカップ欧州予選のイスラエル対イタリアは、ハンガリーのデブレツェン(ナジェルデイ・スタディオン)で中立開催されました。観客は約2,500人と限られた人数でしたが、試合内容は熱狂そのものでした。結果は5-4でイタリアが勝利。ヨーロッパ予選では異例の乱打戦となり、このスコアは単なる守備崩壊ではなく、両チームの戦術的な意図とその綻びが生み出したものだったといえます。

本記事ではこの試合の分析をしていきます!!!

豆知識:中立地開催の背景

今回のイスラエル対イタリア戦は、イスラエル国内ではなくハンガリー・デブレツェンのナジェルデイ・スタディオンで行われました。これは、現地の安全保障上の理由によるUEFAとFIFAの判断で、イスラエルが公式戦を自国開催できない状況が続いているためです。

また、この試合では両チームの選手が喪章を着用して臨みました。イスラエル側は、国内で犠牲になった人々への哀悼を示す意味合いが強く、イタリアの選手たちも連帯を表す形で黒いアームバンドを巻きました。スタジアム全体の雰囲気も通常の予選とは異なり、観客はわずか約2,500人に限られていたものの、静かな緊張感が漂っていました。

こうした背景は、試合そのものの戦術的な側面だけでなく、**「国際情勢とサッカーの関わり」**を象徴するものでした。選手たちにとってはピッチ外の要因を背負いながらの一戦であり、戦術分析だけでは語り切れない文脈がこのゲームには存在しました。

イタリアの基本布陣と狙い

新監督、ガットゥーゾ率いるイタリアは4-3-3で試合に臨みました。

先発はGKにドンナルンマ、最終ラインはディ・ロレンツォ、マンチーニ、バストーニ、ディマルコのセット、そして中盤にバレッラ、ロカテッリ、トナーリ。前線は右にポリターノ、中央にレテギ、左にキーンが並びました。

試合開始後の狙いは主に、ポリターノが右サイドに広がる形で幅を取り、キーンがライン間と相手ディフェンスラインの裏を行き来することで深さを確保し、レテギが背後からのボールを受けて味方に落とすことで攻撃の基点をつくる構造です。

特にレテギはこの試合で3アシストを記録し、キーンやポリターノの得点を演出しました。

イスラエルの対抗策

イスラエルは4-2-3-1を採用し、ダブルボランチのドール・ペレツとエリエル・ペレツが中央を締める形で臨みました。2列目にはカライリ、グルホ、ソロモンが並び、1トップにはビトンが起用されました。

このフォーメーションの意図としては、中央ラインを締めることでバックラインからの縦パスを遮断し、ボールを奪った瞬間にソロモンやグルホのスピードを活かしたカウンターに繋げることでした。実際にイスラエルはこの戦術で前半からイタリアを苦しめ、2度リードを奪う場面もありました。

試合後にこのイスラエルの戦術についてガットゥーゾ監督は以下のように述べています。

“We were crazy to systematically go on the attack, that’s what Israel were waiting for, they hit us on the counter every time.We could’ve defended deeper when leading.”

引用元(Football Italia.com)

【日本語訳】

「われわれは組織的に攻め続けるという、あまりに無謀なやり方をしてしまった。イスラエルはそれをずっと待ち構えていて、こちらが攻め出すたびに毎回カウンターを食らわせてきた。リードしていた時間帯では、もっと守備の位置を下げて対応する選択もあっただろう。」

前半:波状攻撃と守備の綻び

ここからは前半と後半に分けてより詳細に試合の流れを見ていきます。

序盤から続いたオープンな展開

イタリアは序盤からエストニア戦に続き右SBのディ・ロレンツォが内側に絞り、3-2-5の形で攻撃を構築しようと試みました。その結果サイドからの崩しと中央でのレテギの落としを組み合わせ、キーンやポリターノが何度もフィニッシュに絡みました。

一方で、守備時のイタリアはトランジションの整理が不十分でした。イスラエルはボールを奪うと素早く縦に展開し、2列目の飛び出しでゴール前に人数を送り込みました。イタリアは守備ラインのマーク受け渡しが甘く、簡単に崩されてしまいました。前半だけで両チームが複数得点を奪ったのは、この「攻撃は機能するが守備が脆い」という両者の性格が表れたものです。

モイーズ・キーンの存在感

この試合で最も輝いたのはモイーズ・キーンでした。彼は左サイドからのカットインとPA内での決定力で相手守備を翻弄し、2得点を記録。Football-Italiaでも「支配的」と評価されたように、彼のプレーは試合の趨勢を決定づけました。

キーンが中央に流れる動きを見せると、代わりにディマルコが高い位置を取ることで幅を確保するなど、左サイドを中心とした崩しはイタリアの大きな武器となりました。

後半:修正とさらなる混乱

後半に入ると、ガットゥーゾ監督は中盤の距離感を微調整。トナーリが局面によって最終ライン前まで下り、ロカテッリと横並びで強固な並びを作る時間帯も生まれ、速攻により縦に割られるリスクを下げようとしました。これにより一時はイタリアが試合を掌握し、スコアを4-2としました。

しかし、イスラエルは途中投入の選手を活かし、サイド攻撃を強化。イタリアの守備が後退すると、2列目のペレツがPA付近に侵入して再び得点を重ね、なんと4-4の同点に追いつきました。

この試合経過は、イタリアの守備の脆さが如実に表れたものでした。

勝敗を分けたトナーリの冷静さ

この試合で触れざるを得ない選手はやはり決勝点を奪い、この乱打戦を終結させたサンドロ・トナーリでしょう。

アディショナルタイム、カンビアーゾの供給を受けたトナーリがPA外から右足で狙い、ディフェンスの足間を抜ける形で決勝点を奪いました。混沌とした展開の中でも、セカンドアタック(再攻撃)に素早く移る意図が垣間見える場面でした。

試合後評価

今後への展望

イタリアは勝ち点3を得てワールドカップ出場ラインからの脱落からは逃れられましたが、ガットゥーゾ監督が言及したとおり、守備の改善なくして本大会での躍進は難しいでしょう。特にトランジション局面の整備と、リードした試合をコントロールする力が必要です。

先ほど評価したトナーリや最終ラインのバストーニ、ディロレンツォ、マンチーニらの自陣での人を捕まえる動き等の守備はまだまだ改善の余地があります。

一方でイスラエルは敗れたものの、欧州の強豪を相手に互角以上に戦ったことで自信を深めるはずです。コンパクトな守備と切れ味鋭いカウンターをさらに磨けば、今大会だけでなく、次回予選のダークホースになれる可能性があります。

乱打戦の教訓

9得点が飛び交ったこの試合は、単なるエンターテインメントではなく、戦術の意図と綻びが同時に露呈したものだったといえます。イタリアの攻撃力、イスラエルの効率性、そして両者の守備の脆さが交錯し、稀に見るスコアが生まれました。

サッカーは時に「論理」と「混沌」が同居するスポーツです。その象徴が、このイスラエル対イタリアの一戦だったといえるでしょう!

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