2025年8月31日、プレミアリーグ第3節。会場はアストン・ヴィラの本拠地ヴィラ・パークでした。昨シーズンから続くホーム無敗記録は22戦、ヴィラの牙城を崩すのは至難と見られていました。
しかしその日、城を揺るがしたのはリヴァプールでもマンチェスターシティでもなく、ロンドン南部のクリスタルパレスでした。スコアはまさかの0-3。しかも内容は“偶然の番狂わせ”ではなく、オリヴァー・グラスナー監督のチームが描いた設計図どおりの勝利でした。
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マジシャン”鎌田”が引き出したPKと先制点
試合を動かしたのは前半21分です。
2列目で先発した鎌田大地選手がライン間でボールを受けると、ヴィラの守備陣は対応に迷い、最後はGKビゾット選手が前に飛び出して鎌田選手を倒しました。与えられたPKをマテタ選手が冷静に沈め、パレスが先制しました。
この得点はただのファウルではありません。パレスが意図的に「鎌田に前を向かせる」形を繰り返し作っていた結果、GKが飛び出さざるを得ない状況に追い込んだのです。戦術が“事故”を必然に変えた瞬間でした。
グラスナー流3-4-2-1の機能美
パレスが敷いたのはフランクフルト時代からのおなじみ、3-4-2-1でした。
守備時にはウイングバックが下がり5バックを形成します。 攻撃時には2列目とウイングバックが前へ出て、マテタ選手を含め3〜4人が一気に相手陣内へ飛び込みます。
この可変システムが、ヴィラのフォーメーションを徐々に押し下げていきました。中盤ではアダム・ウォートン選手が相手の縦パスを消し、奪ってからは素早く前線へ供給。ヴィラの攻撃が進む前に芽を摘むプレーで、リズムを掌握しました。
ウォートン選手は怪我のリスクを負い、56分にレルマ選手と交代しましたが、それも結果的には戦術的なスイッチになりました。後半は空中戦やロングスローの局面が増えると見て、球際に強いレルマ選手を投入する“ゲームマネジメント”だったのです。
3. キャプテン・グエイが見せたリーダーシップ
後半23分、スコアを2-0としたのはキャプテンのグエイ選手でした。
自陣から持ち出して展開に絡んだあと、前線へ残り続け、最後はこぼれ球を豪快に叩き込みました。守備の要でありながら攻撃のフィニッシュまでやり切る姿は、まさにリーダーの象徴でした。
もちろんグエイ選手の真価は守備でも光りました。ラインの高さを巧みにコントロールし、ワトキンス選手らヴィラの攻撃陣を封じ込めました。リバプール移籍の噂が飛び交うのも当然と言えるパフォーマンスで、試合後にグラスナー監督が「彼を残さなければ成功はない」と語ったのも納得です。
電光石火の攻撃のトドメの一撃
78分、3点目はロングスローからの崩しでした。
レルマ選手の長いスローをニアでラクロワ選手がフリックすると、最後はサール選手が頭で押し込みました。シンプルですが、練習された形が見事にハマったゴールでした。
一見“運”にも見えますが、これは設計された得点です。パレスはスローインでも事前にポジションを細かく調整し、ニアの競り合いから2次ボールを拾う確率を高めていました。
アストン・ヴィラに住まう影 —— マルティネス不在と集中力の欠如
一方のヴィラにとって痛恨だったのは、守護神エミリアーノ・マルティネス選手の欠場でした。マンチェスター・ユナイテッド移籍の噂が取り沙汰される中、チームは精神的にも不安定でした。代役のビゾット選手は懸命に守りましたが、PK献上という形で試合の流れを変えてしまいました。
ウナイ・エメリ監督は試合後「100%の集中が必要だった」と語り、選手たちの心ここにあらずなプレーぶりを暗に指摘しました。結果として、長く続いていたホーム無敗の記録が途切れることになりました。
まとめ
3-0というスコアは驚きではありますが、内容を振り返れば必然でした。
PK、グエイ選手の2点目、サール選手の3点目。どれもその場しのぎではなく、練習と設計に裏付けられた形から生まれています。
ヴィラの無敗記録を止めたこの一戦は、パレスが「中堅クラブの枠」を超え、プレミアで戦術的に最も面白いチームの一つへと進化していることを示しています。
次節以降、対戦相手は必ず研究してくるでしょう。しかし、鎌田選手の柔軟性など、“解答を出し直せる引き出し”を持つ限り、このチームは簡単には止められません。
ヴィラ・パークでの90分は、そのことを世界に強く印象づけました。